民主党地方議員フォーラムでの講演
どう「創憲」に取り組むか
〜民主党憲法調査会「中間報告」をまとめて
(2004年8月10日)
仙谷由人(民主党政策調査会長・憲法調査会長) 憲法調査会長を昨年末中野寛成会長の後を引き継いで担当しています。いまの衆議院、参議院の憲法調査会の議論、あるいは民主党内の憲法議論のこの間の流れを簡単に説明し、内容的なお話も少々させていただきたいと思います。
憲法を考える視点
憲法というのは、だれでも話ができないわけではない。しかし、やってみると、法律論という部分があるので、非常にややこしい部分がある。さらには政治の局面ではまさに政治的なテーマということになるわけですから、政治論や運動論で流されやすいというか、左右されやすい。憲法の規定は本来はこうあるべきだが、そういうものを憲法に書くとかえって政治や国民の生活が悪くなるのではないか、といった趣の議論も相当聞かれます。いわば法律論としての憲法論、あるいは非常に歴史的な観点、世界的視野の価値観・哲学的な部分を持った憲法理論、国家論と、政治論、政治勢力論が時としてごっちゃになって話をされるわけです。
もちろんある憲法規定を変えようとか変えまいとかこうすべきだという議論をするときに、これが政治の局面でゆがめられたり、政治的な思惑のもとに使われたりすることは否定できないところですので、今の局面でこういう提起をすることがどういう意味を持つのかということを絶えず考えなければならない。これもまた、政治家を自任する者としては当然のことではあります。
しかし、我々が絶えず考えなければならないのは、憲法も、最高法規ですが法律ですし、人間がつくったものですから、これを変えてはならないとか変わらないという立場は基本的にはとり得ないということです。時代が変わって人々のライフスタイルやものの考え方、価値観が変わるときには、当然のことながら憲法、国のかたちも変えざるを得ない。変えることによって国民生活が豊かになったり、国家のかたち、我々が国家に関与をするかたちが豊富になるという場合も当然のことながらあり得るわけです。
歴史を見ますと、イギリスのマグナカルタから約750年、近代国家が成立してからも200年近くたとうとし、一歩一歩人間はみずからの国家に関与し、参加し、統治をするところに近づいていることもまた間違いありません。それと裏表の関係で、人々の自由と権利、人権が豊富になっていることもまた疑いのない事実であると私は確信をしています。
EU統合と憲法
そして、この6月にEU憲法条約が25カ国によって採択されました。どうすればヨーロッパ各国間で戦争をなくすことができるかということを最大の問題意識にして石炭鉄鋼共同体、当時のECSCがドイツとフランスの間につくられて発展してきたのがEUです。25カ国のEUができたということは、ヨーロッパの中では戦争をしないということです。その観点からこの憲法条約を見てみますと、国境線を挟んでお互いの主権国家が国防軍を配置して国境を守ることが必要なくなったという、きわめて驚くべき事実に気がつきます。
経済的な共同市場を拡大し、その中でのそれぞれの国の住民の行き来、移動、居住の自由を保障するという人間の自由、活動領域の拡大がなされました。そのことで経済的な発展、物質的・精神的豊かさの実現が保障されるという、まさにその枠組みをつくっているのです。基本にあるのは、まずはアルザス・ロレーヌの石炭争いから始まった国境紛争をなくすという考えで、戦争をなくすことから始まったわけです。
「脱亜入米」ではなく、アジアの一員として
我々もいまアジアに目を向けてみますと、北朝鮮という、近代国家としての民主主義や基本的人権の保障という観点から見れば少々異質の国家が存在します。そして一方では中華人民共和国、これは経済的にもますます発展をしていますが、まだ一党独裁のもとでの政治体制ですし、台湾との葛藤、確執を抱えていますから、3年、5年、10年で国境線を挟んで国防軍が対峙することをやめることができるかどうかと考えますと、容易にはそのことの展望は開かれてこないように思います。しかし、もう少し考えてみますと、中国との関係であれ韓国との関係であれ、いろいろな方々の行動を通じた実感からは、「いやぁ、国境は狭くなったな」。そしてアジアの少なくとも韓国、日本、中国、台湾、ここでは共同で対処をしな� ��ればならない問題がこんなにふえてきたのかという思いに駆られているはずです。つまり共同で対処する以外にうまくいかない、あるいは日本とか中国という国家を超える存在をつくってそこに統治させる以外にこれはうまくいかないという思いを持っている方々が多い。
例えば、中国との関係でいえば、特に山陰地方や九州の方々が強く思われている酸性雨の問題、SARSや鳥インフルエンザの問題、伝染病の問題というふうに考えますと、できればアジア環境機構でも作った方がいい。あるいは、環境問題の前提にあるエネルギーの共同管理や共同発掘、そういうものもつくったほうがいいのではないか。とりわけ現実に日本のビジネス関係者の一番の関心事は、コピー商品の氾濫と逆輸入でしょう。つまり知的財産権を管理しコントロールできる機構をアジアでつくれないだろうか。知的財産権が侵されればそこに訴えて判決をもらい、それが速やかに執行される、そういう公正なルールに基づいたマーケットをアジアで早急につくりたいと思っている方々も多いのではないでしょうか。
また反対に、北朝鮮あるいは中台の問題というやや危なっかしい安全保障上の問題もあります。ワールドカップサッカーまでは日本と韓国のとげとげしい関係がめだちましたが、最近の"冬ソナブーム"を見れば、日本と韓国の関係が2、3年で一挙に融和的、協調・友好的になってきたと思います。私は1971年から在日韓国人や朝鮮人に対する差別問題に弁護士として取り組んできましたが、隔世の感がございます。若い人たちを中心にして偏見や差別にとらわれない関係がどんどん広がっている。韓国の若い方々も、2、3年前までは抗日教育を受けてなかなか大変だったのですが、このごろは日本に対する親近感、あるいは文化交流が一挙に盛んになっていることから見ますと、東アジアの共同体の可能性は十二分にある� �
現に皆さん方が各地域の現場でごらんになっていることは、外国人労働者といわれている方々、研修生、技能実習生という名前で日本に3年間だけ入ってくる。入管法上のワーキングビザが正式に出る労働ではなくても、研修生、実習生名目で入ってこられた方々が何十万も日本には存在するのではないか。人の行き来も昔に比べれば膨大な数に上ってきています。
グローバリゼーションと主権国家の変容
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